規 模:マンション
設 計:鳥居信貴
施 工:阿部建設株式会社
京町家では、住まいの中に「通り庭」を設けて
細長い住まいに通風や採光を確保していました。
この「通り庭」から発想を得たのが、
リビングに、ワーキングスペースにと
自在に使える「通り部屋」のある住まいです。
結婚を機に、子育てしやすい環境で暮らしたいと引っ越しを考え始めました。
引っ越し先として夫婦で選んだのは、環境も交通のアクセスもいい文教エリアです。ただ人気が高い分地価も高いので、すぐに戸建てを購入するのは予算的に難しいと判断。今後子供の成長と共に生活スタイルが変わること、また、将来的な戸建ての購入も見据え、今回は希望のエリアで分譲マンションを購入し、フルリフォームすることにしました。
リフォーム前提で物件を探した結果見つけたのが、築35年のヴィンテージマンション。家族3人で暮らすには十分な広さがある3LDKです。南に大きな窓があるのでLDKの日当たりは抜群でしたが、北側にある2つの個室までは光がさし込まず、暗い印象なのが難点。また、水まわりも狭く、使いづらいのが気になりました。こうした課題をクリアするため、間取りを大幅に改修しようと「阿部建設」にリフォームを依頼しました。
購入したマンションは、玄関を入ると廊下を軸に個室が挟み、その先にLDKが広がるスタンダードなプラン。北側のスペースを明るくするために、「阿部建設」から京町家をアレンジした「通り部屋」のあるプランを提案されました。
京町家では、家の表から裏まで続く細長い土間「通り庭」がよく見られます。「通り部屋」は、この「通り庭」から着想を得たプラン。南北に部屋を連結させて、大きな開口部のある南側から奥の北側まで抜ける細長い「通り部屋」をつくりました。
このオープンな「通り部屋」は、全長12.7m。引き戸を閉めればリビングや書斎スペース、主寝室に振り分けられるので、在宅で仕事をする時も便利です。引き戸を開け放てば窓からの光が奥の北側まで届き、家全体が快適になりました。廊下はなくした分、住まい全体を広く使うことができます。
「通り部屋」の壁一面には、奥行65cmの収納スペースを設置しました。扉はグリップレスの板張り仕上げ。扉を閉めると前面がフラットになり、たっぷり入る収納量に対し、すっきりとした見た目です。キッチンの壁面にはオープン棚とキャビネットを造作。十分な収納スペースをつくったことで、既成の家具は必要最小限を置くだけで済み、統一感のある住まいになりました。
家族が過ごすLDKは木材を中心に仕上げていますが、水まわりは最先端の設備とモダンな色をチョイス。トイレは黒のタンクレストイレ「サティスGタイプ」、浴室も黒一色の「スパージュ」(共にLIXIL)を選び、非日常感を楽しんでいます。既存の浴室は狭さが気になっていたため、リフォームの際にスペースを広く取り、1620サイズのシステムバスを設置。自由に間取りを変えられるのが、フルリフォームの魅力だと実感しています。
いちばん日当たりのよい南側には、ダイニングキッチンを配置しました。キッチンの対面には、小上がりの畳コーナーも設置。まだ小さな子どもがここでお昼寝したり、家族でTVを見たりと、いろんな過ごし方ができます。
キッチンに合わせてダイニングテーブルを造作してもらったので、配膳も片づけもスムーズになりました。小上がりの畳コーナーは、このテーブルに向かって腰掛けられるベンチとしても活躍。内装材と造作家具が調和して、空間全体がすっきりとした印象です。「通り部屋」の床はタモ材のフローリング、ダイニングキッチンの床はタイル仕上げにして、ひと続きの空間をさりげなくゾーニングしました。
リフォーム前には独立型だったキッチンは、対面式のオープンスタイルに改修。システムキッチン「リシェルSI」(LIXIL)に木目調の側板と壁面カウンターをプラスしたことで、空間に溶け込むデザインとなりました。
リフォームを依頼した「阿部建設」には、物件探しから相談。物件を選ぶときにマンションの管理規約まで細かくチェックしてもらえたので、安心感がありました。中古マンションは床をフローリングに変更できない物件が予想以上に多かったのですが、プロに事前に細かく確認してもらったことで、イメージ通りの仕上がりに。また数年後にリセールする時の資産価値まで計算してくれたので、将来設計もスムーズに進みました。
「通り部屋」の斬新な発想も含め、私たちの生活スタイルに合わせた住まいを手に入れることができたのは、自由設計でフルリフォームを実現できたから。賃貸物件では既存の間取りに合わせて暮らすことになりますが、暮らしに合わせた間取りで生活するのは、予想以上に快適です。子育ても、テレワークも家の中でこなす毎日ですが、「通り部屋」のある住まいのおかげで、楽しく過ごしています。
LDKのエアコン1台で家全体の室温調整が可能。使用頻度の少ない主寝室のエアコンは、壁面収納に設置して目立たないようにしました。
キッチンは「リシェルSI」(LIXIL)を採用。木目調の側板と壁面カウンターをプラスし、空間全体でデザインを統一しました。
壁面収納の一部を書斎スペースとしました。間仕切りで仕切れば、テレワークができる個室に早変わり。
来客が使う洗面所と、洗濯機のある脱衣所はドアでしっかり間仕切り。生活感を出さない、見せない、細やかな設計の工夫がなされています。
黒色で統一された浴室は「スパージュ」(LIXIL)を採用。通常より大きい1620サイズにできたのもフルリフォームならではです。
モダンな色使いで雰囲気を一新。タンクレストイレは「サティスGタイプ」(LIXIL)を採用。LDKや通り部屋とはインテリアのテイストを変えることで、非日常的な雰囲気に。
※この記事は個人の感想に基づいて制作しております。
写真:岡松愛子