規 模: 地上2階建
設計・施工:株式会社 中善工務店
無垢の木をふんだんに用いた家づくりを
積極的に進めていこうとしている中善工務店では、
加工場の一部をカフェに改装して木の空間の魅力を発信し、
コミュニティづくりに貢献しています。
カフェに込めた思いを、社長の中川善行さんにうかがいました。
カフェ「もくぞうこ」は金沢市から北東へ約15キロ、河北郡津幡町の田園地帯にあります。田んぼの広がりの向こうに山々が連なるのどかな風景の中に建つこの建物は、父が経営していた工務店の加工場として30年ほど前につくられたもの。4年ほど前に父が急逝し、設計事務所に勤めていた私がUターンして引き継ぐことになりました。そのとき考えたのは、「これからは地域工務店も発信していく時代」だということです。そこで、加工場の一部に手を加えてカフェとして一般に公開することにしました。協力関係にある地元の建築家さんに基本構想をお願いし、元からの木の架構と窓からの眺めの良さを生かした、開放的な店舗に仕立てました。
カフェ部分の外壁は、この地域で昔から多く使われてきたスギ板の下見板張りです。伝統的なモチーフですが、インダストリアルテイストの街灯を合わせた、トレンド感のあるおしゃれな雰囲気をつくりました。1階は半分を厨房とし、半分を客室に。天井の一部を撤去して吹き抜けをつくり、2階とつなげて開放的にしました。無垢材の力強い架構は見応えがあり、木の色に映えるビタミンカラーのモダン家具を選んでいます。厨房背面の間仕切りには、古い家の解体時に大事に外して保管しておいたガラスを入れ、レトロな味わいに。昔は当たり前だった型ガラスも、今や得難いものになっているんです。吹き抜け下には「D51ストーブ」という薪ストーブを設置。以前から現場用に使っている薪ストーブで、薪をくべると「ポッポッ」と機関車のような音を出すのが名前の由来です。昆虫を連想させるユニークな姿も場をなごませてくれます。薪ストーブを入れた理由は、加工場で出るおがくずや木っ端をエネルギーとして活用したかったから。廃材を燃料に、1階と2階の大空間をこの一台で暖められるんですよ。
客室は2階にもあり、高い目線から見下ろすワイドビューは、1階からのそれとはひと味違う気持ちよさだと思います。ここは、大人数が集まれる広さを利用して、ワークショップやイベントの会場としても利用します。2019年8月のオープン以来、アイシングクッキーやファブリックパネル、クリスマスリースなど、手づくりを楽しむワークショップを開催し、好評を得ました。当社で家を建ててくださった建主さんに、講師としてデビューしていただきました。まだ大々的な宣伝はまだできていませんが、カフェの存在が地域の人に口コミで広がり、コミュニティスペースとしての認知が広がっていってほしいですね。
カフェが整ってきたところで、他の加工場部分にも手を加え、家を建てた客さまが自由に使えるDIYスペースにすることを計画中です。ねらいは、建主さんにも家づくりに参加していただくこと。木は生き物ですから、建てた後も乾燥による収縮が起きて、変形したり割れが入ったりと変化します。手を動かすことでそうした木への理解が深まるので、職人の苦労を想像していただけるといいな……と。さらに、木の家に愛着をもち、自分でメンテナンスしていこうという意欲につなげることができたらいいですね。未経験でも取り組みやすいとこととして、ダイニングテーブルの表面の磨きをやってもらうことにしています。まず、無垢の厚板を電動カンナできれいにしてから、紙やすりでさらに滑らかにします。仕上げにオイルを塗り込めば完成。一生もののテーブルになりますよ。今後は工具の貸し出しも検討し、もっと多様なDIYが行える環境を整えていきたいです。
「もくぞうこをみんなの集まれる場所にしたい」というのは、妻の夢でもあります。以前飲食業に携わっていた経験を生かして、カフェを切り盛りしてくれています。「まわりに何もないこんなところにわざわざ来てくださるお客さまに、できるだけ楽しんでもらえるように」と、コーヒーのほか軽食とスイーツも用意しています。コーヒーを淹れる水にもこだわり、私が車で1時間ほどの宝達山(ほうだつやま)へ名水を汲みに通っています。慣れない仕事をがんばってくれている妻を、少しでも支えたいなと思い。おかげさまでインスタグラムのフォロアーも増え、そこから来店してくださるお客さまも表れました。そして、ついに「家を建てる予定なので相談したい」というお客さまも……。カフェを拠点に木の空間の気持ちよさを発信し、カルチャーを楽しむ場として盛り上げ、コミュニティに貢献していけたらうれしいです。
加工場の一部を改装してカフェに。外壁にはこの地域に多く見られるスギの下見板張りを採用しました。小さな立て看板を出すだけなので、おいでいただく際はうっかり見落としさないようご注意してください。
木で組み上げられたカフェ空間には、スギの大径木から取った分厚い1枚板をテーブルが置かれ、無垢材の魅力に直接触れることができます。素朴な木の空間にモダンな家具を合わせたら、若い方にも人気です。
近くには民家がなく、田んぼと山だけが広がりほっとするような風景。個性的なフォルムの薪ストーブは、現場で普段使っているものと同じもの。エアコンでは得られない、じんわりしたぬくもりが伝わります。
2階はもともと職人さんたちの打ち合わせや休憩に使われていた場所。インダストリアル調の大きなペンダントライトを下げ、シャープなデザインのアイアンフェンスを設置。ストーブのおかげでとても暖か。
解体現場で出る古建具から型ガラスを取り置き、保管しています。厨房の背面の窓に、パッチワークのようにあしらい、しゃれた意匠にしました。レトロな雰囲気を楽しんでいただけたらうれしいです。
水にこだわったコーヒーのほか、ホットサンドやジュース、スイーツなどを用意してお待ちしています。どんな家を建てようかな……と悩んでいらっしゃる方、ぜひこの空間を体験してみてください。
※この記事は個人の感想に基づいて制作しております。